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琵琶湖畔のホテルで出会った兵隊さん(前編)〜伊藤幸雄〜 |
Uooな人々 |
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今から27年ほど前の暑い夏の日のことです。
僕は時代劇のロケで琵琶湖畔のホテルに宿泊していました。突然異変が起きたのは撮影が四日目に入った時のことです。その日は朝から、旅姿の若侍に扮し撮影に臨んでいました。
父を殺害され、犯人に誘拐された母と仇を探し求め旅する若侍…草鞋の紐を締め直しては、疲れた足取りで歩き出す。そんなシーンの撮影でした。
異変は、僕がしゃがみ込んで草鞋の紐を締め直している時におきました。突然足元に黒い人影が現れたのです。
「え〜?本番中なのに誰だろう。このカットは一人だけの筈、変だな…」
そんな事を思いながらカットがかからないので、そのまま芝居を続け、何気なく辺りを見回しました。しかし、影の原因となるような人物は誰もいません。もちろん樹木の様なものも一本もありません。そこにあるのは、ただ静かに押し寄せる琵琶湖の波だけでした。
「あれ〜、この景色何処かで見たな…」
そんな事を思いながら芝居を続け…監督の「カット」の声が聞こえたところで、僕は直ぐにカメラマンを見ました。しかしカメラマンも普通にOKを出しています。
「あれは何だったんだろう…僕の錯覚かな…?」
そんな事を思いながら、その日の撮影は日没とともに終了しました。
その夜、同室になった俳優Aさんと軽く部屋で酒を飲んでいると、突然、彼が妙な顔をしました。何かを感じ取っている事はわかったのですが云いだすまでは黙っていようと思い
彼の異変には何も触れず、そのままにしていました。
そして、翌朝が速かったこともあり早々に就寝することにしました。明かりを消し横になると…突然、琵琶湖畔の流木に腰をおろした若い兵隊さんの後姿が現れました。その兵隊さんは布製の鍔の付いた帽子を被っています。
「あ〜、この景色…撮影で眺めていた琵琶湖の景色と一緒だ。」そう思ったときです。
「線香の香りがだんだん強くなってきたね。」と突然、同室の俳優Aさんが言いました。
僕は「兵隊さんが来てますよ。」
彼が「朝から、あっちこっちで線香の匂いがしていたのはそれだな…」すると、兵隊がゆっくりと此方を振り向きました。その顔は普通に穏やかそうな顔をしています。
「この兵隊さん。普通だな…戦死じゃないのか…?」そう思ったときです「赤痢になった…」と聞こえました。
「ふ〜ん、そうか赤痢で死んだのか…」すると「自分は生きているッ!」と少し声を荒げるような感じで伝えてきました。
「何故みんな無視するんだ。」僕は「あ〜、終戦から何年も経つのに、死んだことにも気づけないでいるのか…」そう思うと何故か哀れになりました。
するとその兵隊が「全て変わった。この琵琶湖までも変わってしまった。」と言うのです。
「この兵隊さん、この辺の生まれなのかな〜」と、思うと「た・じ・み…」と聞こえました。
後日、たじみと言う地名を探したところ、岐阜に多治見という地名がある事が分かりました。あの兵隊さんの出身が岐阜の多治見かどうか確認はできませんが、僕はそうだと思っています。
そして僕は「あなたは、どうして此処にいるんですか…?」と心の中で問いかけると、兵隊さんは「出征前に許嫁と一緒に来た思い出の地…」と言いました。
「許嫁…?結婚されなかったんですか…?」と訊ねると「徴兵が無ければ結婚してたッ!」と兵隊さんの感情が高ぶり激昂すると、今まで見えていた琵琶湖の景色が突然闇夜の世界に変わったのです。
この時、「あ〜、そうだったのか、心の在り様で瞬時に住む世界が変わってしまうんだ。」
心が穏やかな時は、顔や景色は普通に見え…怒りに感情が高ぶると鬼の様な形相に変化し
琵琶湖の景色が闇夜の世界に代わってしまう。これが地獄の世界なのかも知れないと思いました。
そして、これ以上この霊に関わっていてはいけない、そう思った時でした。
隣にいた彼が「直ぐに立ち去れッ!」と叱りつけるように言い放って、部屋の電気を点けたのです。すると今まで見えていた兵隊の姿は一瞬にして僕の前から消え去りました。
「悪臭を放つ、たちの悪い霊だな…あ〜いう奴に限って付き纏うんだよな…」
彼の言葉に少し不安を感じながら、その夜は電気を点けたまま寝る事にしました。
<プロフィール>
東京都出身。
1974年「ウルトラマンレオ」レギュラー出演を機に本格的な俳優活動を開始。翌年「秘密戦隊ゴレンジャー」のミドレンジャー役で一躍有名に。
現在は医療関係の映像プロデュース等をはじめ、自身のWEBサイトのデザイン・制作・運営等も手掛けている。
また、真夏竜が座長を務める真夏座の12月公演「面影橋」の脚本を担当。出演は、真夏竜・篠田三郎・藍とも子・三田美枝子他。公演の詳細は、コチラ!
「DVDウルトラマンレオ」Vol.2特典映像では、伊藤氏による当時の「ウルトラマンレオ」企画書の朗読を聴くことが出来る。
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